未分類

浮世物語より

投稿日:2025年4月23日 更新日:

今はむかし、御内に召しかかへられし野夫医者のありけるが、名をば通斎といふ。
物も知らず、只聞書ばかりにて療治をする。
その書物はみな仮名書きなり。
浮世房問ひけるやう、
「其方は学文よくさせられたそうな。
 しかも療治もよくめさるると見えた。
 きどくの事かな。
 医学正伝は誰の作ぞ」
と問ふ。
もとより見たる事もなければ、
その作者は聞きたるばかり也。
聞書のはしに「ごうとくらうじん正でんをつくる」と、
仮名に書きて置きたるを思ひ出だして、
『それこそ存じたれ。
 正伝は唐の後藤九郎二郎といふ人の作ぢや』
と答へた。

(浅井了意(あさいりょうい)『浮世物語(うきよものがたり)』による。)

現代語訳

今は昔、家臣として召し抱えられていた野暮な医者がいた。その名は通斎といった。
彼は医学知識を知らず、ただ誰かの話を聞いて書き記したものだけで治療を行っていた。
その書物はすべて(漢字ではなく)仮名書きだった。
浮世房(という坊主、浮世物語の主人公)が(通斎に)尋ねた。
「あなたは学問をよく修めていると聞いています。
 それに治療もお上手だと見えます。
 ご立派なことです。
 医学正伝は誰の作なのですか」
と問うた。
(通斎は)元々(医学正伝を)見た(読んだ)こともなく、
その作者も聞いたことしかなかった。
聞き書きの端に「ごうとくらうじん正でんをつくる」と、
(漢字ではなく)仮名で書いておいたのを思い出して、
「それなら知っている。
 正伝は唐の後藤九郎二郎という人の作だ」
と答えた。

(正しくは「恒徳老人」なのに、「後藤九郎二郎」という名前だと誤解し、
 しかもそれを、さも初めから知っていたかのように、知ったかぶりをして答えた、
 ということ)

※医学正傳は、中国の医学書。
 作者は虞摶(ぐたん)で、恒徳老人(こうとくろうじん)と号した。
 1531年、明朝時代の書。

-未分類


comment

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

関連記事

電話会議。

随分と久し振りの投稿になりましたね。 先日、金沢の塾長とt先生と私の3人で、電話会議をしました。 小野田教室の講師は私1人なので、確認事項や相談事項が出てくるのです。 電話会議が終わり、駐車場に行くと …

Kさんのお話。

知人のKさんの了承を得たので、彼と彼のお父様とのお話を紹介します。 Kさんは、高校から私立に進学しました。Kさんのお父様は何も言わずに学費を出してくれました。 Kさんが大学院を修了し、就職した後に、お …

メモと紙幣

One day, the son found a glass bottle that was on the refrigerator. The bottle was one of his father …

代車生活。

今回の車検と修理は長くかかるかもと言うことで、良さげな代車を貸してもらいました。 私が乗っている車より、冷房も効くし、約10万kmもトータルでの走行距離が少ないし。 でも、さすがAT。 右足をたくさん …

no image

「好きな時間を過ごさせてあげてください」という嘘

不登校に「見守りましょう」「好きなように過ごさせてあげましょう」は1940年の答えです。戦前ですよ? 現代で「見守りましょう」「好きなように過ごさせてあげましょう」をやると、お子さんは動画サイトやアプ …

サイト内検索

カテゴリー

アーカイブ